母親の子育ての仕方で

子どもの性格が決まる?

更新:2024.6.25  文責:永野  (理研)

齧歯類デグーの子育ての観察から見えてきたこと

私たちヒトでも、性格(パーソナリティ)は様々です。では、各個人のパーソナリティはどのように決まるのでしょうか? パーソナリティは、親から子への遺伝や、子が育った環境の影響を受けると考えられています。環境要因の1つとして、親からどのように世話をされてきたのかという、親の養育態度が挙げられます。今回は、齧歯類デグーの母親の養育態度が仔の行動に影響を与えた事例について紹介します。

デグーとはどんな動物?

デグー (Octodon degus) は、チリ中央部を原産とする小型の齧歯類です。妊娠期間が約3カ月と齧歯類の中では長く(ラットやマウスの妊娠期間は20日間程度)、全身が毛に覆われ、歯も形成された状態で誕生し、誕生の翌日には歩行を始めます。母親だけでなく父親も子育てに参加したり、多種多様な音声を用いて他個体とコミュニケーションをとるといった、子育てや社会行動においてヒトと共通する特徴をもつことから、乳幼児期の親子間の絆形成やコミュニケーションの研究のモデル動物として期待されています。

誕生翌日に歩行しているデグーの様子

自然に発生した母親の養育態度の差異が仔の発達に与える影響

サル班のメンバーの1人である永野茜は、京都大学文学研究科比較認知科学研究室においてデグーの親仔の行動を、仔が3週齢になるまで毎日、観察・記録しました。京都大学にて、別の母親から2020年3月5日に4個体(雄2個体、雌2個体)、2020年3月29日に5個体(雄4個体、雌1個体)が誕生しました。なお、これらの仔の親である雌2個体と雄2個体は、2019年7月から4個体で集団飼育していたため、いずれの雄が仔の父親であるのかということは不明です。先に誕生した仔の母親は安定して授乳を行い、仔がいる場所を起点として行動していました。これとは対照的に、後に誕生した仔の母親は、仔が母乳を求めて接近すると遠ざかるというような仔に対する拒絶行動が見られました。

図2.高被養育群(5週1日齢)と低被養育群(5日齢)が群がって過ごしている様子
2日齢の低被養育群のうち1個体に、高被養育群の母親が接近している様子
低被養育群の母親がその仔に対して授乳拒否をしている様子

先に誕生した仔4個体を高被養育群、後に誕生した仔5個体を低被養育群として、各群における1週3日齢から2週1日齢までの6日間の体重測定時の行動を分析しました。体重測定の手続きは、各個体に対して1日あたり30秒間ずつ行いました。分析の結果、高被養育群の方が低被養育群よりも、体重測定時の立ち上がり回数(後肢で立ち上がった回数)が多かったということが分かりました。齧歯類の立ち上がり行動は、恐怖心が低いことや衝動性、活動性の指標として用いられています。そのため、母親から拒絶される経験のある仔は、恐怖心が高く、衝動性や活動性が抑制されるという可能性が示唆されました。今回、デグーにおいて観察された低被養育群の立ち上がり行動の抑制は、ヒトのネグレクト児の新奇環境探索の抑制 (Egeland & Sroufe, 1981) と類似した行動傾向です。

「あまのじゃく」の源は?

どのような要因によって、あまのじゃくの個体が発生するのかということは、まだ明らかとなっていません。もしかしたら、親の養育態度も寄与しているのかもしれません。動物を対象にした研究において、実験的な操作としての母仔分離が仔の発達に与える影響を検証した研究は数多くなされていますが、飼育環境で自然発生した母親の養育態度の差異が与える影響について検証した研究は依然として数が少ないのが現状です。今回、紹介した研究は、あくまでも2個体の母親とその仔を対象にした事例研究であるため、今後、より多くの個体を対象とした体系的な検証が求められます。異なる養育態度の母親によって育てられた仔は、若齢期や成熟期といった、より後の発達段階でコントラリアン行動を示すのか、また、母親以外の個体のどのような行動がコントラリアンを生み出すのかということを調べることも興味深いと考えています。

デグーの子育ての詳細については、以下の論文をご参照下さい。

永野 茜・上北 朋子 (2023) 親子の絆がもたらすもの:齧歯類デグーの子育て 動物心理学研究, 73, 51–62 https://doi.org/10.2502/janip.73.2.3


またその他動画は以下のリンクからご覧いただくことができます。

https://osf.io/zav54/?view_only=31835190392144f4af8f88a5d0472030