目は心の鏡

更新:2023.9.25  文責:倉岡 康治 (関西医科大学)

他者の視線につられてしまう

図1のサルはリンゴとバナナのどちらに興味を持っていると思いますか?

 視線を向けるバナナに興味がありそうですね。このように、我々はただ視線がある物に向いているのを見ただけで、それに興味を持っているという他者の気持ちを推測しているのです。また、ヒトでもサルでも他者の視線が向く方を反射的に追ってしまう「視線追従(gaze following)」という現象があります。これは他者がバナナを見ていると、その視線を見た者も思わずバナナを見てしまうような現象です。

例えば、サルに「右か左かに標的が現れたら、できるだけ早くその標的を捕えなさい。」と指示したとします。その際、中央に左右どちらかに視線を向ける他者の顔写真が提示されると、視線が向くほうに標的が出る場合は素早く反応できるのに対して、視線の向きと反対の位置に標的が出る場合では反応が遅くなってしまいます (図2、未発表データ)。この視線追従は、あらかじめ視線を無視するように言われていても無意識のうちにつられてしまうほど強力なので、目が持つ魔力と言えるでしょう。

視線の向きを検出する扁桃体

他者の視線の向きを検出する脳領域の1つとして、側頭葉の内側に神経細胞が集まった扁桃体と呼ばれる領域が挙げられます。扁桃体では、相手が誰かに関わらず特定の向きへ視線を向けている顔写真だけに特異的に応答するニューロン(Tazumi et al., 2010)や、他者の目に視線を合わせるときに大きな応答を示すニューロン(Mosher et al., 2014)が見つかっています。つまり扁桃体は他者視線の検出器と言えます。

 ところで、他者と視線を合わせることで心が通じることもありますが、真っすぐ目を見つめ続けられることにストレスあるいは脅威を感じることはないでしょうか?いわゆる「ガンを飛ばす」や「メンチを切る」など地方特有の様々な呼び方があるように、相手を睨みつけることは威嚇する意味もあります。サルの場合はそれが顕著で、山中でサルに出会ってじっと眺めていると、歯をむき出しにしたサルに飛び掛かられてしまうかもしれません。実は、サルは他者の視線が自分を向いているか否かによく注意を払っています (Sato & Nakamura, 2001)。

 先ほど視線検出に関わる扁桃体を紹介しましたが、扁桃体には他者の情動により応答を変えるニューロンがあります(Kuraoka & Nakamura, 2006)。図3に示すものは、威嚇してくる顔に対して応答するニューロンの例です。黒い点は1回のニューロン発火を表し、時間が左から右へ流れています。黄色い時間帯で顔写真刺激が1秒間提示されており、10回程提示した平均発火頻度をヒストグラムで示しています。相手が誰かに関わらず、威嚇してくる顔刺激に対してニューロン発火が増えているのに対して、中立顔に対する発火に変化がないことが分かります。このように扁桃体は、他者の顔あるいは視線から、他者の意図や気持ちを読み取る際に働くようです。

コントラリアンは大変?

ヒトもサルも他者の視線の向きによく注意を向け、相手の意図を読み取ろうとしますが、相手と異なる行動をとるコントラリアンになるために、つい相手の視線につられそうになる衝動をグッと堪える忍耐力が必要なのかもしれません。