更新:2025.03.29 文責:林 明明 (理化学研究所)
ヒトを対象とした研究の一つのメリットとして、参加者本人にその選択や行動の理由を問うことが可能であることが挙げられると私は思っています。もちろん、本人が主観的に報告した理由はかならずしも正直に答えているとは限らないですし、本人も自覚していないような思い込みが報告を歪めていることもあります。
主観的な報告の歪みとしては、例えば「社会的望ましさバイアス」(Paulhus, 1983)などが知られています。これは社会的に良いと考えられる方向へ回答が歪むことです。回答の歪みを軽減するための質問方法の工夫や、数理モデルによる回答の修正も行われることがありますが、歪みの軽減や修正についてはひとまず割愛します。
今回の研究トピックでは、私が過去に行ったオンライン調査から、自由記述の分析例について少しご紹介します。今後はヒトの実験において参加者がコントラリアン行動をとった際の心理についても、自由記述を求めて分析することができるのではないかと考えられます。
多くの方は、Zoomなどを使用したビデオ通話によるコミュニケーションを経験したことがあるかと思います。それでは、実際に対面してのコミュニケーションと比較して、このようなビデオ通話によるコミュニケーションをどのように感じていますか? 以下は私が2021年に実施したオンライン調査での質問項目の一部です(林,未発表)。実際に対面してのコミュニケーションと比較してビデオ通話によるコミュニケーションは話しやすいかどうかについて、7段階の選択肢(1:全くそう思わない~4:どちらともいえない~7:非常にそう思う)から選択した後に、その理由について自由記述を求めました。
回答者200名のうち、中間の選択肢を除いた「全くそう思わない」「そう思わない」「あまりそう思わない」(ビデオ通話は「話しやすくない」)を選択した人の割合は43%、「少しそう思う」「そう思う」「非常にそう思う」(ビデオ通話は「話しやすい」)を選択した人の割合は34%でした。対面に比べてビデオ通話によるコミュニケーションは話しやすくないと回答した人の割合がやや高いものの、統計的には有意な差ではありませんでした。次にそれぞれの回答の理由を見てみましょう。
図1は、自由記述に含まれている単語をもとに、似た語をグループ化する階層的クラスター分析をおこなったものです。これにより、それぞれビデオ通話を「話しやすくない」「話しやすい」と回答した理由をいくつかの特徴のグループに分けました。色分けごとに異なる理由であると捉えることができます。
単語に分ける前の文章も参考にしつつ解釈すると、ビデオ通話は話しやすくないと回答した理由は、1)電波が悪いと聞こえない、途切れる、2)環境や機械によって止まる、3)自分や相手の反応が伝わりにくい、4)画面ごしだと表情が読み取りにくい、5)会話のタイミングが難しい、のようです。ビデオ通話は話しやすいと回答した理由は、1)緊張が少なく、慣れると話しやすい、2)自宅や楽な服装でリラックスできる、3)周りの環境によっては話しやすい、4)相手によっては会うより話しやすいが、タイミングも気になる、と解釈できそうです。
話しやすくない理由としては、通信や機械の問題もあることが分かります。これらの問題が解決された場合、ビデオ通話に対する回答は少し変わるかもしれません。また、話しやすいと回答した人の中でも会話のタイミングが気になるという意見がありました。ビデオ通話では会話のタイミングがつかみにくく、会話が被ったりタイムラグが生じたりすることによって心理的に「話しやすくない」という感覚が生じる可能性が考えられます。
話しやすくない理由としては、通信や機械の問題もあることが分かります。これらの問題が解決された場合、ビデオ通話に対する回答は少し変わるかもしれません。また、話しやすいと回答した人の中でも会話のタイミングが気になるという意見がありました。ビデオ通話では会話のタイミングがつかみにくく、会話が被ったりタイムラグが生じたりすることによって心理的に「話しやすくない」という感覚が生じる可能性が考えられます。
今回の結果は自由記述の解析の例としてご紹介したものであり、ビデオ通話によるコミュニケーションについて何か結論づけるためのものではありません。普段からビデオ通話を使用している頻度や個人の性格特性なども影響があると考えられます。今回ご紹介したような文章データの数量的な解析は特に大規模なデータの解析に適しています。実験環境のみならず、SNS上の投稿を解析するなど、日常生活でのコントラリアン行動の背後にあるヒトの心理を探るための手法として利用できるかもしれません。