更新:2025.09.29 文責:高橋 佑磨 (千葉大)
白いクロサギがいます。クロサギは、一般には黒色の体をもつ鳥ですが、南西諸島の集団には白色の個体も見られるのです(図1)。種名からは想像できないような個体間変異があるのです。フィッシュバーガーやコロッケバーガーのように『ハンバーグの入っていないバーガー』や、もはや粉ではない『歯磨き粉』のようなものといえるでしょうか。おっと、話が意味もなく脱線しましたが、本題に戻しましょう。
一つの種の中に、いくつかの異なったタイプの個体が存在するような現象は、多型と呼ばれます。なかでも、色彩の異なるいくつかのタイプが存在するような現象は「色彩多型」と呼ばれます。クロサギの例ももちろん色彩多型の一例です。モンキチョウに見られる白いタイプと黄色いタイプも種内多型です。動物の体の色は単なる見た目の違いではなく、実は生存戦略の重要な一部と考えられています。派手な色はパートナーを引き寄せるサインとして機能し、背景に溶け込む地味な色は捕食者から身を守る役割を担います。また、黒っぽい羽は熱を吸収しやすく、白っぽい羽は反射して体温上昇を防ぐなど、体温調節にも関わります。こうした多様な機能をもつ体色が同じ種の中に複数存在すれば、それぞれの個体が異なる環境条件に適応できるため、種内個体間の資源競争を緩和したり、リスク分散をする結果として個体群の増殖率を高めたり、個体群を安定させたりすると考えられます。たしかに、最近の研究で、動物に見られる色彩多型は、個体群の増殖効率を高めたりや安定性を高めることがわかってきました。一方で、色彩多型がさらに高次の生命現象、すなわち、種の分布範囲や絶滅率、安定性に与える影響はほとんどわかっていませんでした。
私たちは、種内の色彩多型が種の分布範囲や絶滅率、安定性に与える影響を検証するため、生態情報や分布情報、系統情報が充実している鳥類に注目して解析を進めました。本研究では、世界中の鳥類のうち、十分な情報が得られた5,762種を対象に解析を行ないました(全体の約3.5%の種に色彩多型種)。調査では、生息範囲の広さ(面積)と生息範囲の環境幅、絶滅リスク、個体数の動向という四つの側面から鳥の「生態的な成功度」を評価しました。
解析の結果、色彩多型を示す鳥は生息できる地域の範囲が広く、より多様な気候や植生に適応できる傾向が確認されました(図2)。これは、ある環境では暗色の個体が有利に生き残り、別の環境では明色の個体が適応しやすいといった役割分担が可能になるためと考えられます。その結果、種全体が多様な条件に耐えられるようになり、分布の広がりにつながるのです。また、絶滅リスクについても明確な差が見られ、色の多型を持たない種は絶滅の危険性が高いことが示されました(図2)。さらに近年の個体数動向を見ても、多型をもつ種は個体数が安定しているか増加傾向にあり、単型種では減少傾向の種の割合が多くなっていました。
一連の結果は、色の多型が種全体の生存を助ける「保険」のような役割を果たしていることを示唆しています。生態的に重要な「色」という形質に多様性をもつことで環境の変化や捕食圧の変動に柔軟に対応でき、ひとつの条件が不利になっても種全体が一気に滅びる可能性を減らしているのです。そのような環境変動が例えなかったとしても、ニッチ分割によって競争を緩和したり、天敵に襲われるリスクを分散することで、種としての成功度を高めているのかもしれません。これは、同じ能力を持つ人ばかりの組織よりも、異なる専門性を持つ人々が集まっている方が強く安定して成長できるのと同じ理屈と言えるかもしれません。
今回の研究は、色彩多型を持つ鳥がなぜ成功しているのかを全球的な解析で示した初めての成果です。種内の色彩多型は、さまざまな選択圧によって進化してきたと考えられます。ある種では、性選択によって進化したかもしれません。別の種では、異なった2つの微環境に適応するために進化したのかもしれません。中には中立的に進化してきた多様性もあるのかもしれません。今回は、そのような進化プロセスと結びつけることができませんが、進化によって生み出された色の多様性は、進化の副産物として、種が未来を生き抜く力に結びついていることを示唆しています。
この成果はプレプリントとしてbioRxivに公開されました。詳しくはこちらをご覧ください。
Hata, K., E Sato, Ç. H. Şekercioğlu, S. Noriyuki, M. Murakami and Y. Takahashi (2025) Bird species with color polymorphism have greater ecological success. bioRxiv. doi: https://doi.org/10.1101/2025.06.19.660624